アート思考を育てる教育者・栗原政史

多様な価値観が混在する今の時代、教育に求められるものもまた変わってきている。「正解」を教えるのではなく、「問い」を立てる力を育てる──そんな考えのもと、栗原政史は独自の教育メソッドを実践している。彼が手がけるのは、子どもも大人も対象とした“アート思考”のワークショップだ。

アート思考とは何か?その本質に迫る

栗原政史が提唱する「アート思考」とは、芸術を鑑賞したり、絵を描いたりすることにとどまらない。むしろ「物事を自分なりに捉え、意味づけ、形にしていく力」を指している。

たとえば、1枚の紙を見せて「これは何に使える?」と問いかける。机の上に並ぶのは、答えのない問いと、それに真剣に向き合う子どもたちの姿だ。
「型にはめるのではなく、“枠の外に出る勇気”を育てたい」──そう語る栗原のワークショップは、美術館や公民館、さらには企業の研修などでも導入されている。

このアプローチは、自己表現だけでなく、共創力や問題解決力といった21世紀型スキルにもつながっており、多方面から注目を集めている。

学びの場に“正解”はいらないという哲学

多くの教育現場では、いまだに「正しい答え」を求める空気が根強い。そんな中で栗原政史は、あえて「正解を教えない授業」を行う。

彼の授業では、参加者全員に“意味のない図形”を配るところから始まる。それをどう見るか、どう解釈するかは完全に自由。
子どもたちはそれを「風船」「迷路」「宇宙」と自由に想像し、言葉にしていく。そこに“良し悪し”の評価はない。あるのは、ただ一人ひとりの視点だけだ。

「教育とは、誰かの“当たり前”を少し揺らすこと。揺れた分だけ、その人の視野が広がる」と話す栗原の授業は、評価よりも対話を重視する。

アーティストではなく“育てる人”としての在り方

栗原政史は、自らもかつて美術大学を目指していたというが、途中で「つくること」よりも「育てること」に関心が移った。
現在はアーティストとしての活動よりも、教育者としての立ち位置を大切にしている。

「自分ひとりで作品を生むよりも、100人の中に芽をまくほうが面白い」と話す彼の姿勢は、多くの参加者に安心感を与えている。

彼が主催するオンラインのワークショップでは、全国から小学生から社会人まで幅広い層が参加。画面越しでも伝わる彼の優しさと問いかけの鋭さが、多くのリピーターを生んでいる。

これからの社会に必要な“ゆらぎ”を育てる

栗原政史が目指す教育は、「知識を詰め込む」ものではない。
むしろ、不安定で、あいまいで、答えのない世界に向き合う力──“ゆらぎ”に耐えられる力を育てることだという。

彼の教室に通った生徒の中には、自信をなくしていた子や、学校に馴染めなかった子も少なくない。
けれど、アート思考の中では「間違ってもいい」「そのままでいい」というメッセージが繰り返される。それが、子どもたちの心を静かにほぐしていくのだ。

「ゆらいでいい。揺れながら、探していけばいい」
栗原政史の言葉には、これからの社会を生きる私たちへのヒントが詰まっている。

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